◆ グルテンフリー(小麦オフ)で得られる効果
── 小麦を抜くと、どんな効果が得られるのか。
だるさや日中の眠気、頭痛、肩凝りなど、病院に行くほどではない不調を感じている方は、そういった症状が軽くなることが多いです。
ただ、小麦を除去するとすぐに「すごく体調がいい!」「効いている!」という実感はじつはあまりありません。
人は徐々に変化するものに気づかないから、少しずつゆっくり改善していき、3週間ほどすると「かなり体調がよく、すっきりしている」と自覚できます。
どれくらいすっきりしたかは、久しぶりに小麦製品を食べて調子が悪くなることで、
「自分は小麦を抜いているほうが体が楽なんだな」と気づかれる方が多い印象です。
◆ 副腎疲労と小麦の関係とは
── では、「グルテンフリー」でなぜ体調がよくなる人や、痩せる人がいるのか。
まず副腎と小麦の関係を知る必要があります。副腎は左右の腎臓の上にあるクルミくらいの大きさの臓器で、
50種類以上のホルモンを分泌し、ストレスをコントロールしています。
ストレスを受けると体内に炎症が引き起こされることがわかっていますが、
その“炎症”に対応するのが、副腎皮質から分泌されるホルモン「コルチゾール」です。炎症が火だとすると、
コルチゾールは火消しの役割を果たし、炎症が増えるとコルチゾールが不足します。
現在のストレスフルな社会では、副腎への負担がとても大きくなっているんです。
そこで、コルチゾール以外で炎症を取り除く方法として、米国ではグルテンフリーが取り入れられています。
── コルチゾールとはどういうホルモンなのか。
副腎は、肉体的、精神的、環境的ストレスを受けるとコルチゾールを分泌し、
血糖値や血圧、免疫機能、自律神経などが正常に働くように、その調整を迅速に行っています。
ところが、日常的なストレスが多すぎると副腎が疲弊して、適量のコルチゾールを分泌できなくなります。
そのため、副腎が疲弊すると、倦怠感を覚えたり、イライラしやすくなったり、
朝起きるのが辛くなったり…といった慢性的な不調を感じやすくなります。
◆ 小麦を食べ続けると起きる「腸もれ(リーキーガット)」とは
── グルテンフリー(=小麦を食べないこと)がなぜ、体内の炎症を取り除くのか。
グルテンに含まれる「グリアジン」と、グリアジンが分泌を促す「ゾヌリン」に関係します。
体の中に、口から肛門までひとつの管が通っているとイメージしてください。
肝臓などと違って、腸は体内にありながら外につながっている臓器です。
食物は小腸で消化されやすいサイズまで分解されると、小腸の細胞と細胞の間を通り、血中に運ばれ、必要な細胞に届きます。
このとき 、細胞間が開きっぱなしの状態だと、細菌も入ってくるため、細胞と細胞の間は
「タイトジャンクション」によって普段は閉じられており、栄養を消化吸収するときだけ開くようになっています。
この細胞間を開けるシグナルが「ゾヌリン」と呼ばれる物質です。
小麦に含まれるグリアジンを摂ることでゾヌリンが分泌されるため、朝にパン、昼にパスタ、おやつにクッキー、
夜にラーメンなど小麦を使った食品ばかり食べていると、常にゾヌリンが分泌されることになります。
おなかの中に不要なものが入ったとしても、タイトジャンクションがきちんとしていれば問題はありません。
ところが、ゾヌリンが分泌され続けると、タイトジャンクションが緩み、入ってほしくない未消化物や細菌まで血中に入ってしまいます。
これを「腸もれ」(リーキーガット)といいます。体に対して異物と判断され免疫が働くと、
炎症が起きるため、コルチゾールが分泌されます。目の前に悪い人がたくさん並んでいても
家の玄関を閉めておけば入ってきませんが、玄関が開いていれば中に入ってきますよね。
腸もれは、まさにそういう状態です。
── 毎食毎食、小麦製品を食べていると腸もれを引き起こして、炎症が起きる。
もうひとつ、腸内フローラも関係があります。腸内フローラには善玉菌・悪玉菌・日和見菌の3種類がありますが、
グルテンは悪玉菌のエサになります。そのため、小麦製品を食べると悪玉菌が増え、炎症を引き起こすことになります。
炎症が出ればコルチゾールが増え、腸内のフローラも崩れてしまいます。
── ゾヌリンは栄養を取り入れるために必要。
ゾヌリンは栄養を取り入れる働きを助けるなど、素晴らしい役割を果たします。
小麦製品の摂取量が少なかった時代は問題が起きていませんでしたし、ゾヌリンが悪というわけではありません。
朝、昼、夕、おやつに小麦製品を摂ることでゾヌリンの分泌が過剰になり、タイトジャンクションが開きっ放しになることが問題なんです。
意識して小麦を控えないと、ゾヌリンの分泌量が適量を超える傾向にあるということです。
── そのほかに小麦を控えたほうがよい理由。
首から下の器官は体に合わないものを食べると下痢をしたり、肝臓で解毒したり、
毒素(※加工食品に使われている添加物や、マグロなどの大きな魚に取り込まれる水銀やダイオキシン、
建築資材から出るホルムアルデヒド、野菜に含まれる農薬など。)を排出しやすいんです。
ところが、脳には解毒機能のための臓器がないため、血液脳関門を構成し、毒素などが脳細胞に行かないようになっています。
しかし、ゾヌリンが作用すると脳のタイトジャンクションも開き、毒素が入ってしまうと考えられています。
最近はアルツハイマー型認知症のなかでも、マイコトキシンというカビ毒の問題が論文で出ています。
◆ グルテンフリーで痩せる理由
── グルテンを抜くと痩せるのはなぜ。
ストレスに対応するホルモン、コルチゾールが水分を体の中に貯留させるホルモンなんです。
そのため、体内に炎症があると、ストレスに対してコルチゾールが分泌され、体は水を貯留しやすくなります。
つまり、小麦を食べると水分で体重が増えやすくなるんです。
また、炎症によりきちんと代謝が回りにくくなることも太ってしまう原因になります。
さらに、人間の最大のストレスが飢餓であったことも関係しています。太古において飢餓に備え、空腹の状態でも血糖値や
脂肪を維持することが、コルチゾールの大切な役割でした。そのため、コルチゾールが分泌されると、
脂肪をなるべく使わないように蓄積しようとしてしまいます。
飢餓がストレスだった時代は、ストレスホルモンのスイッチのオンとオフがわかりやすかったのですが、
現代は、ずっとオンになりっぱなしなんです。例えば、いつの間にか食品添加物を摂っていることが
炎症を引き起こしていることに気づかず、コルチゾールが出っ放しになります。